最近読み終えた本。
『長崎原爆記-被爆医師の証言』(秋月辰一郎、弘文堂、1966年)
ずいぶん古いが、とてもリアル。
秋月辰一郎さんは、『アンゼラスの鐘』というアニメ映画の
モデルとなった人です。
長崎の爆心地より1800メートルの位置にあった、
浦上第1病院(現聖フランシスコ病院)に医師として
つとめていた秋月さんの詳細な原爆記録。
「まえがき」で秋月医師は、こう書いている。
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…私自身も被爆しながら、無医地帯と化したこの瓦礫
砂漠のなかで、薬品も医療器具も無に等しいまま、死魔
とたたかい、負傷者と病人の間を走りまわった。
しかし、いったい私になにができたのか。原子爆弾とい
う未知の巨大な悪魔に対して、なんの知識も手だてもな
く、徒手空挙で立ち向かうほかなかった。爆圧による悲
惨な打撲傷やガラス創、熱風によるむごたらしい火傷に
対して亜鉛華油を塗り、マーキュロをつけるだけの情け
ない治療しかできなかった。そのうえ原子爆弾の魔性を
知らなかった私は、運よく傷も受けずに生き残った人び
とが、下痢を続け、髪が抜け、皮膚が紫色になってたお
れていくのを見て、毒ガスを吸ったか、赤痢か、紫斑病
かと、正体不明の病原の治療法に思い悩んだ。
その数ヶ月間、診療カルテもなく、病院日誌もなかった。
私自身の日誌もなかった。それを残す余裕もなかった。
しかし、なにか記憶しておかなければ、書きしるしておか
なければという気持ちが日増しに強まっていった。
それは、原爆の残酷さと悲惨さを訴えて、ふたたびこの
惨禍のなからんことを願うためばかりではない。また試
練にたえて立ち直り、信仰を守りつづけた長崎の信徒を
讃えるためばかりでもない。
私にこの記録を書かせたのは、治療も十分受けられ
ないまま、この世を去っていった人びとの地底からの叫
びなのである。病院を目指して登ってきた亡者のような
黒く焦げた人びとに、なんらなすことのできなかった私へ
の怨念なのである。
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被爆の惨劇のなかでの、身を粉にした医療活動。
「死の同心円」と名づけた放射能による原爆症。
そのおそろしさを知ることができます。
長崎医科大の永井隆医師との微妙な関係も
はじめて知りました。
しかし、宗教や考え方が違っても、目の前の苦しむ人を
助けようとするその活動は、この2人の医師に共通します。
『ヒロシマ・ナガサキ 二重被爆』(山口彊、朝日文庫、2009年)
被爆当時27歳。現在93歳になる著者の
被爆体験の手記です。
長崎の三菱の造船所で設計の仕事を
していた山口さんは、同僚2人とともに
広島に一時転勤中被爆。大火傷の重傷を負う。
8月8日に長崎に帰り、次の日に
ふたたび被爆。「ピカが追いかけてきた」のです。
そして、山口さんは生き残りました。
日本の戦争や指導者・軍部にたいする一貫して
もつ批判的精神、真実をみようとする姿勢が、
読後の印象のひとつとして残りました。
そして、体験の描写も、語彙が豊富できちんと選んで
書かれており、想像力を高めさせてくれます。
しかし、何度読んでも、誰の証言を読んでも、原爆被害の
実相を画像で想像しようとするのは、難しいです。
私の想像をはるかにこえるもの
だということだけはわかるのですが。
以下、山口さんの言葉。
「地獄絵図だとか悲惨だなどと簡単に言葉にしてしまっては、
起きた事柄を何も表現していないどころではない。事実を
取り逃がし、軽く扱ってしまうことにしかならないだろう。人間
が人間でなくなってしまった光景がそこかしこに広がっていた」
「核兵器の威力を前にしては、誰もが普通でいられなくなる。
人が人でなくなる。ある詩人が叫んだように、『人間を返せ』
というほかない惨状がこの世に出現してしまう。なぜなら、私
は見た。人が筏(いかだ)となって川を流れるところを。私は
知った。骸(むくろ)の脂の滲(し)みた土は乾かないことを。
いまや夏に仰ぎ見る雲は、私にとって墓標として映る」
戦後、アメリカ兵との交流を通じて感じたことや、
なぜ被爆体験を語るようになったのかなども書かれていて、
胸をうちます。
山口さんは、「私のような『二重被爆者』は日本に165人
程度いるといわれている」と書かれています。
『神々の食』(池澤夏樹・文、垂見健吾・写真、文春文庫、2006年)
きのう、東京駅の本屋さんでみつけ、
帰りの新幹線で読んだ1冊。
作家の池澤夏樹さんの、沖縄の食文化紹介。
でも、ただの食紹介ではない。
沖縄の底知れぬ食文化のヒミツ、その作り手を
丁寧に取材したもので、興味がつきません。
ああ!これこれ!と、食べたことのある食材を想像し、
新幹線のなかで、にたにたしながら読みました。
粟国島の塩や味噌(「そてつ実そ」)が気になりました。
まだ行ったことのない島です。
いや~。沖縄行きたい!
カゲ茶さんありがとう。読んでみます
投稿情報: 長久 | 2009年7 月29日 (水) 09:17
前紹介したかもしれませんが・・・
スティーブン・オカザキ監督の/ヒロシマ・ナガサキ
お勧めです
投稿情報: カゲ茶 | 2009年7 月29日 (水) 00:32