きょう、ふと、2009年2月に岡山県学習協の会報No.298に
私が書いた「居住福祉学のススメ」という文章を読み返しました。
そのなかで、『居住福祉学と人間』の中の熊野勝之弁護士の
述べられているところを紹介しているところがあるのですが、
いまもすごく大事だなと思いますので、ブログ初掲載します。
以下。
『居住福祉学と人間』の第一部のなかで、弁護士の
熊野勝之さんが「『居住の権利』の発見」というテーマ
で書かれているので、それをかいつまんで紹介してい
くことにします。
熊野さんは、阪神大震災のとき、住まいを失った被
災者を救済する法律がないだろうかと探したそうです。
そうしたら、国連の社会権規約(「経済的・社会的及び
文化的権利に関する条約」、日本は1979年に批准)
の第11条に、「この規約の締約国は、自己及びその
家族のための相当な食糧、衣類及び住居を内容とす
る相当な生活水準についての、すべての者の権利を
認める」と書いてあることを見いだしました。これこそ
が、「居住の権利」だったのです。
「相当な」というのは、「適切な」という意味です。す
べての人が、「適切な住居」を確保する権利を認めて
いるのです。
国連の社会権規約委員会は、条約11条にある「相
当な(適切な)」という言葉を重視し、たんに「頭上に
屋根」があればよいというものでなく、「安全、平穏に、
人間として尊厳を持って生活する場所を持つ権利」と
定義しています。
さらに熊野さんは、社会権規約委員会が議論を重ね、
委員会として全員一致した解釈を「一般的意見」として
発表していること、そこに見られる国際基準の「居住の
権利」の中身を紹介しています。
その内容を整理すると、大きく三つの要素があると
指摘されてます。
第一の要素は、「居住へのアクセス(手に入れる)の
権利」です。少し長くなりますが、熊野さんの文章を引
用します。
「住居を手に入れる方法は、自分で建てる、買う、借
りるというのが普通でしょう。居住は人権だ、だれにも
保障されている、といっても、建築費・購入費が高すぎ
たり、家賃が高すぎては一部の金持ちしか手に入れる
ことはできません。そこで、住居がすべての人に入手
可能なようにする主たる義務が政府にある、というの
が居住の権利の第一の意味です。これは、政府がす
べての人に住居を無償で提供しなければならないと
いう意味ではありません。ここから二つのことが出てき
ます。
その一つは、規約の第2条に『この規約に定める権
利が、財産その他いかなる差別もなしに行使されるこ
とを保障する』と定めていることと結びついて、居住の
権利がその人の経済的条件・年齢・健康などで差別
されることなく保障されなければならないということで
す。このことは、自分の力では住居へのアクセスがで
きない高齢者・母子家庭の家族・障害者・失業者・震
災の被災者など不利な条件にある人には、政府が優
先的に住居を確保しなければならないということです。
(略)
その二は、住居の購入(ローンの月額など)や家賃
などの住居費が、その人が無理なく支払える家計に
適合したものとなるような政策がとられなければなら
ないということです。公営住宅に入居できても、その
家賃がどんどん値上がりして生活費を圧迫し、住居費
以外の生活費を切りつめなければならない、さらには、
失業や病気のために家賃を支払えなくなってそこを追
い出されるようなことがあってはならない、ということで
す」
熊野さんは続けて、「居住の権利」の第二の要素と
して、「占有の保障」ということをあげられています。
これは、現在住んでいる場所に「居続ける権利」と、
意志に反して移動させられた場合には「元の場所に
戻ってくる権利」ということです。震災で自宅を失った
被災者が、何に一番苦しむかといえば、自分の住ん
でいた場所に戻れるかどうか、です。ところが、阪神
大震災の復興の場合は、この「占有の権利」が非常
に軽視された結果、人びとのコミュニティが壊され、
修復できないという事態が引き起こされました。高齢
者の孤立・孤独など、現在にも深刻な影響をおよぼし
ています。
また、都会などで大きな社会問題となっているゼロ
ゼロ物件の不動産業者などの悪質な強制立ち退か
せ(家賃納入期限を一日でも遅れると鍵を変えられ
てしまうなど)は、この「占有の権利」の明らかな侵害
にあたります。また、都市計画などでも、道路拡張や
大型開発による強制立ち退きが、住民の意思に反し
て行なわれるケースがたくさんあります。たとえ少数
の反対でも、「占有の権利」は、多数決では奪えない
基本的人権だという視点が欠けているのです。
国連の社会権規約委員会は、「一般的意見四・七」
で、強制立ち退きを認める場合の条件を極めて厳しく
定め、さらに各国の政府報告書の審査を通じてこれを
一層具体的に示しています。要点は①強制立ち退き
に高度の正当な理由があること、②影響を受ける人々
誠意を持って話し合いを尽くすこと、③適切な移転先、
補償などを提供することなど、です。
国際基準の「居住の権利」第三の要素は、「住宅の
質的な内容」という問題です。四点指摘されています。
1点目は、住居は一定の設備の利用が可能なもの
ではければならないということです。電気・ガス・風呂・
冷蔵庫・洗濯機・冷暖房・排水設備は最低限必要な
設備といえます。
この間の「非正規切り」に対応し、岡山県でも、県営
住宅の一部を、住まいを失った方に提供する緊急措
置をとりましたが、その部屋にはお風呂がなかったそ
うです(その後改善されましたが)。たんに「屋根がつ
いていればよい」ということでは、国際基準に照らして
もダメなのです。
2点目は住居の居住性です。構造的に安全で、暑
さ寒さ湿気などを防ぐものでなければなりません。地
震などに耐えられるつくりになっているかも、この「居
住性」に入ります。また、神戸市六甲山に作られた震
災の仮設住宅では、冬、湿気でふとんが凍ったそうで
す。これでは、人間らしい住まいとは言えません。
3点目は、住居の立地条件。勤務先・病院・学校な
ど社会施設の利用が可能な場所になければなりませ
ん。
さいごの4点目はその地の文化・伝統を反映した住
居であることです。
以上、「居住の権利」の三つの要素(「アクセス」「占
有の保障」「住宅の質」)をみてきました。熊野さんは、
「居住の権利」について、人権の観点からこう強調され
ています。
「人権という権利は、…あなたが『ひと』であるという、
ただそれだけの理由でその実現を請求できる権利で
す。だれに対してか。政府や地方自治体に対してです。
(略)…『居住は人権だ!』ということは、あなたは政府
や自治体に対して、あなたが『ひと』であるというただ
それだけの理由で、私の『居住の権利』を保障してくだ
さい、と請求する権利をもっていることになります。政府
や自治体はこれをあなたに保障する『義務』を負うので
す」
国際的にもきちんと確立されている「住むことは人権」
という、認識をもっと広げる努力が必要だと、昨年から
の事態をみていて、痛感しています。
(以下省略)
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