なんと…
雑誌『経済』(新日本出版社)の9月号に、
書評を書かせていただきました!
以前このブログでも紹介した、
『理論劇画 マルクス資本論』(かもがわ出版)の
書評です。
岡山労働学校「いまこそ経済学教室」の経験を
ふまえたものになっています。
参加されたみなさんのおかげです。はい。
しかし、雑誌が発売されて1か月ほどたちますが・・・。
岡山で「書いてたね」の反応は2人だけ・・・。
どれだけ読者がいるのか、よくわかりませんが、
せっかく書かせていただいたので、
このブログでも紹介させていただきます
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門屋文雄:原作
紙屋高雪:構成・解説
石川康宏:協力
『理論劇画 マルクス 資本論』
(かもがわ出版・定価1365円=税込)
「徹夜して読んだマンガは、生涯で2冊目です!」
本書を読んだ、ある青年の感想である。貧困と格差、資本の
論理が裸のままで猛威をふるう現代日本で生きる人びとに、マ
ルクスの『資本論』は新たな輝きをはなっている。
本書は、1982年に刊行された門井文雄原作、「劇画カルチュ
ア」シリーズ『資本論』を、紙屋高雪氏が再構成し、さらに現代的
な解説をくわえて、全面リニューアルしたものである。
構成は三章立てである。第一章では、マルクスの青年時代、
『資本論』を執筆するにいたる経過のことが描かれる。そして、
中心となる第二章が『資本論』第一巻の解説である。最後の第
三章は、マルクスの家族とのエピソードや、エンゲルスの経済
支援など、『資本論』という書物が、マルクスという巨人がさまざ
まな苦難と格闘しながら、その生涯をかけて書きあげたもので
あることがわかる。
タイミングよく、私が関わっている岡山の学習運動で、経済学
の労働学校(全九講義)を取り組んでいる時期に出版され、プレ
講演会と入学式記念講演のそれぞれの講師(そのお一人は、
本書の協力者である石川康宏教授)が、本書を紹介したことも
あり、多くの青年が買い求めた。また労働学校では、『資本論』
の内容をできるだけ紹介しながら、講義をすすめている。その
実践経験もふまえながら、本書のすぐれた特長を考えてみたい。
まず第一に、本書は、『資本論』第一巻の見事な解説、導き役
を果たしている。年配の方は、「マンガで資本論?そんなもの…」
と、最初から敬遠するかもしれないが(実際に私のまわりでもそ
ういう声を聞いた)、本書は、『資本論』の理論構成、そして概念
規定まで、じつに正確に書かれている。ゴマカシなし、である。
これは労働学校での経験であるが、ある青年受講生が本書を
読んで「ここが大事だと思った」というのをみんなに披露する出来
事があった。その青年は、黒板に「C+V+M」の図表を書き、
「資本はこれで…剰余価値がこの部分で…」と正確に搾取のしく
みを解説。最後は「団結することが…」でしめくくった。本書で初
めて『資本論』の理論にふれた彼が、さらにそれをまわりに語り
だすのを見て、私は本書の威力を実感した。その彼は、この夏
の間に、『資本論』全三巻を読破したいと、猛勉強中である。
第二の特長点は、マルクスとエンゲルスの人柄や、『資本論』に
まつわるエピソードにふれられることである。古典を学ぼうとする
人に、古典家たちと近づき、親しみのもてるような材料を提供す
ることは、とても大事なポイントといえるが、本書はこの点でもす
ぐれている。
これも青年から聞いた感想であるが、「恋愛の話もあって、人柄
がわかってイイ」「家族の話のところは涙なしには読めなかった。
『資本論』が完成するまでの苦労がよくわかった」など、この部分
での関心の高さがうかがえた。それは、理論を学ぶ姿勢にも反映
するのではないだろうか。
第三の特長点は、『資本論』執筆当時の社会状況が、文体や作
画を通してプンプンにおってくることである。とくに、『資本論』第八
章「労働日」にあたるところは、圧巻である。私は、労働学校の「労
働時間」の講義で、本書を使って、婦人服製造所のマリ・アン・ウォ
ークーリーの過労死のエピソードを受講生に示しながら解説したと
ころ、非常に印象に残ったようだった。視覚効果もあわさって、こう
した労働環境が、現代日本と悲しいほどに重なって感じられる。
四点目、最後の特長点は、『資本論』そのものに挑戦してほしい
という、執筆者たちの熱意が伝わってくることである。本書は冒頭
で、こう強調する。「『資本論』の要約…それは限られた枚数の中で
はしょせん無謀なことである…それでもあえて私が挑んだ理由はひ
とりでも多くの人々に『資本論』本文への興味を示して欲しいから
だ」。そして、門井氏の作画全体からも、その思いが伝わってくる。
「熱い」のである。
また、第二章で現代日本の事例を多くひきながら的確な解説をつ
けている紙屋氏は、つねに『資本論』からの引用などを用いながら
コメントをし、巻末には、『資本論』を読むためのさまざまな助けに
なる本を数多く紹介して、丁寧な道先案内人となっている。そう、こ
の劇画を読んでからが、本格的な学習のスタートなのである。その
ための橋渡しの役割を本書は担うし、本書を手がけた人びとの最
大の目的も、そこにこそあると思う。
労働学校でも、はじめて『資本論』にふれた受講生から、「マルク
スが150年も前にこれだけ社会の分析をしていたことはスゴイ!」
「『資本論』は義務教育で教えるべきだ」など、マルクスの理論が青
年のダイナミックな思想的成長の糧になっている。ほんものは、時
代をこえて人びとの心をつかむのである。
さいごに、「科学」を伝える表現の可能性についてふれたい。科
学雑誌『Newton』7月号は「ニュートン力学」の特集。その編集の
努力が見事である。「ニュートン力学」のポイントと魅力を伝えるた
めに、さまざま工夫をこらした絵や図、考え抜かれた解説がちりば
められている。集団的に議論し、初心者にもわかるように配慮さ
れている。「科学」(サイエンス)を誰にでもわかりやすく伝えるため
には、「技」(アート)が必要である。『Newton』が文字ばかりの理論
書であったら、初心者にはまったく歯が立たないであろう。
これは、「社会科学」にもいえないだろうか。『資本論』は科学の
書である。私たちは、それを伝えるための「技」に習熟しなければ
ならない。その意味で本書は、「社会科学」を伝える表現方法の新
たな可能性を開いたといえる。続巻をふくめ、あらたな展開に期待
したい。
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