さて、79期岡山労働学校「こんな人に会っちゃった教室」の
目的意識について、ちょっと小難しく書きます。
参考になる本があって、
『看護を語ることの意味-“ナラティブ”に生きて』
(川島みどり、看護の科学社)です。
今期の労働学校につながるヒントとなる
部分を引用していきます。
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実践に基づく確かな看護理論構築のために、個々の
看護師が日々の実践課程で印象に残った場面や人に
ついてのストーリーを語る意味は決して小さくはないと
思います。なぜなら、そのナラティブを注意深く聞けば、
そこにはある学説に通じる看護学研究への仮説を抽出
できることも少なくないからです。
とりわけ臨床においては、ナラティブを語る職場文化を
形成することが、看護の質の向上に通じることを共有し
ておきたいと思います。なぜなら、第1に、1人の看護師
が語る1つのナラティブは、確かに1回限りのものであっ
ても、そこから引き出された教訓は、自己の他の看護場
面に適用できるだけでなく、他の看護師も用いることが
できるからです。第2に、語ることを通じて、潜在化され
ていた問題意識が顕在化し、実践的知識を生み出すと
同時に、すでにある理論との共通性や差異が明らかと
なります。第3に経験を語る文化のなかで、経験の未熟
な看護師らも、自らの経験を流さず注意深く洞察する
習慣や、他人の経験から学ぶ姿勢を身につけることが
できると思われるからです。(11~12P)
「経験を語る」ということは、自分の知覚を投入して得
たことを言葉によって追体験をすることです。その場合、
その経験をやみくもに語ればいいというものではなくて、
その背景を語ると同時に、再現性、すなわち同じような
場面、同じような人、同じような看護現象、そういった状
況のなかで、もう一度同じようなことが起こりうる。つま
りそういったことを積み重ねていく上で、普遍化できる
ということが言えます。こうして身についた個人レベルの
技能を技術化できれば、これは知識として看護界全体
が共有できます。こうして技術化されたものはさらに新
たな技能を生み出していくわけです。(14~15P)
べナーは、「看護のエキスパート性を育成するために
は、実践における経験的な学習が必要である」として、
「臨床家が経験したストーリーを体系的に集め考察する
ことによって、新しい知識・技能を発見することにつなが
る」と述べています。
(中略)ただそれが組織的に行われてこなかったため
に、経験は散発的であり、圧倒的に多くの経験知は沈下
したままになってきたことを、歴史的な教訓にしておきた
いと思います。看護理論も未発達で、教科書もない時代、
こうした先輩たちの語りがどれだけ役に立ったか計り知
れません。そこに流れる看護の真髄は、現代にも通じる
ものがあり、年を重ねても決して古びてはいないと思い
ます。(16P)
先輩たちの語りを単なる自慢話や思い出話として聞き
流すのではなく、そのなかに潜む法則性を意識化する
ことで、看護職全体が共有しうる技術に発展していく可
能性があるということを、聞き手の私たちが意識する必
要があると思います(18P)
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私は、活動の先輩たちの実践経験から、自分自身の
活動の指針となるものを、貪欲に吸収したいと、つねづね
思っていますし、実際、多くの先輩たちの経験知は、
今の私を形成する上で、たいへん大きなものがありました。
たとえば、岡山県学習協の初代事務局長の鴨川俊作さんが
亡くなってから、鴨川さんをしのんで冊子がつくられたのですが
(『いつも労働者のなかに』)それは、いろんな人が鴨川さんの
思い出を語っている内容で、鴨川さんの活動の方法、考え、
経験知がたくさん凝縮されていて、すごく参考になった
ということがあります。こういう経験は、本当に無数にあります。
私は、ロールモデルに恵まれてきました(自ら求めてそういう
本を読み、人に会いに行って話しを聞いたということもありますが)。
ただ、いま、活動に参加しはじめた若い青年たちには、
そういうロールモデルが少ない、とも感じていますし、
そうしたことを学ぶ機会も少なくなってきていると思います。
そこで、
「こんな人に会っちゃった教室」なのです。
それぞれの人が持っている経験知は、たいへん豊かなもので、
それを埋もれさせずに、言語化し、共有化することができれば、
それぞれの大きな財産になります。
また、労働学校は、講義を聞くだけでなく、討論もあります。
今期は、講師の話をうけて、その内容の受けとめだけでなく、
それぞれが「自分のこれまでの歩み」や「自分の生き方、考え
方」と重ねあわせて考え、それを出し合う討論にもなるのではと
期待しています。
実践の理論化・言語化、そして共有化。
これは、学習運動のひとつの大切なテーマだと自覚しています。
今期の労働学校は、そんな目的意識をもって、
初めてのこころみですが、やってみたいと思います。
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