「ものの見方・考え方」の学習会の2回目がありました。
参加は9名で、初参加の人も2人いました。
学習会の前にそうめんをいただきました。
目の前には、田植えをしたばかりのたんぼ。
まったく素晴らしい環境です。
今日は、「人間の『知性』について」というテーマで、
1時間講義、40分ほどの感想交流でした。
講義のはじめに、もみの木のルーツになっている、
さくらんぼ保育園に関わる本を3冊読んだことを紹介し、
若い職員さんは読んでないみたいなので、オススメしておきました。
前半部分は難しいところもあったようですが、
後半の「子どもの言葉を聴く」のところは、保育実践との
関わりで、聞いてもらえたようです(釈迦に説法的ではありましたが)。
以下、講義の概要です。
はじめに:さくらさくらんぼ保育園にかかわる本を読んで
◇『ひとの祖先と子どものおいたち』(井尻正二、築地書館、1979年)
◇『こどもの発達とヒトの進化』(井尻正二、築地書館、1980年)
◇『生物の進化に学ぶ乳幼児期の子育て』(斎藤公子、かもがわ出版、2007年)
一。人間の「知性」について
1。ひらたく言えば、「考える力がある」ということ
◇人間だけが、考えることができる
*人間の知性は、感覚器官をとおして知覚した対象を記憶し、これをもとに
想像し、また言語によって一般化し、抽象化してとらえる働き。脳の働き。
*知性と、感情と、意志は、相互に深くかかわりあっていて、それらが総体
として、私たちの生きていく力をつくりだしている。
◇考えることと、言葉
*言葉なしには、考えることができない。
*手話、点字なども、言葉のやりとり。
*判断・推測・比較・分析・総合・推理、想像・・・などの「考える力」は、
すべて言語によって支えられている。
*豊かなことばを獲得できると、豊かにものごとを考えるベースになる。
◇そもそも、なぜ人間は「言葉」を獲得したのか
*人類の起源は・・・
・約600万~700万年前の東アフリカに住んでいた類人猿ではないかと
言われている。それまでの樹上生活に別れをつげる(猿との分化)。
・それから大部分の期間で、人類には複数の種が共存していた
・15万年~20万年ほど前にアフリカで誕生した新人(ホモ・サピエンス)が、
6万年ほど前に世界中に広がって、最終的には他の種は絶滅した。
*火の使用、肉食の獲得(口腔の広がり、脳のエネルギー源)
*集団労働のなかでのコミュニケーション
*言葉の発達、やがて文字の発明(経験・技術・文化の世代をこえた蓄積)
*言語の獲得・発達は、次回・次々回のテーマ「労働」「社会」と密接な結びつき。
2。一般化(抽象化)、概念(カテゴリー)、法則性の認識
◇一般と個別
*「一般化」とは、たくさんの個別のものにふくまれている偶然的な、非本質的
な特徴、性質を捨象して(捨て去って)、それらにふくまれている共通の、
本質的な特徴、性質を抽象する(ひきだす)という手続きをへて、私たちの
ものになる。
→「タマ」「クロ」「ミケ」・・・「猫」
→「いわし」「さんま」「かつお」・・・「魚」
*一般化ということを行なってこそ、個別のより深い認識も可能になる
◇対象の本質にせまるために必要なものが「概念(カテゴリー)」
◇法則性の認識(一般化の手続きによって可能になる)
*人間は、知性の働きによって法則性を認識し、理論をつくり出し、この理論に
よって対象の構造や運動の法則を解明する。
*法則性の認識によって、世界の本質をとらえることができる
3。人間の知性の発達について
◇まず実践(環境への働きかけ。環境との相互作用)
◇判断、総合、分析、検証、推測、総括・・・(一般化、法則化)
◇それを集団で行なうこと、くりかえし行なうこと
二。子どもの言葉と、おとなの言葉
◇『子どもとことばの世界-実践から捉えた乳幼児のことばと自我の育ち』
(今井和子、ミネルヴァ書房、1996年)
の第6章を、私なりにポイント紹介をします。
1。子どもの言葉をしっかりと聞きとめる、ということ
◇ハッとさせられる子どもの言葉
*子どもなりの世界の面白さとピュアさ
*子どもの言葉から、私たちが教えられること
*日常生活のつぶやきに共感し、聞きとめる感度のよいアンテナを
2。聞こえることと、聴くことの違い
◇子どもの世界、子どもの思いを「聴く」
*「聴く」とは、そのものの意味や内面まで理解しようとする行為
*それ自体を「面白い」と思える感性と、土台となる「ゆとり」が大切
*大人の側の「無口」「早口」「ことばの先取り」
◇「大人の言葉かけこそ大事なのだ」という大人側の視点ではなく
「耳を傾けて聞くことは、語ることよりもはるかに偉大な愛の証である」
(イヴァン・イリチチ)
◇「あのね・・・」「先生、きいて」「えーと、えーと」
*まずなによりも、大人の「聴く姿勢」が大事。待つ姿勢。何を話しても「受けと
めてくれる」という安心感が、子どもが「話したい」と思える基礎になる。
*子どもの声、無言の言葉、表情やまなざし、言葉の背後の行動やしぐさも含め
「子どもたちのことばを興味深く聞こうとする保育者の気持が、自分のこ
とを何でも聞いてもらいたい、話してみようという“表現意欲”をおこさせ
るのだと思います。子どものことばに耳を傾けること、すなわち保育者が
まず聞き上手になることが、子どものありのままを受け入れる、子どもと
つながりあえる道を拓くことになるのではないでしょうか」(今井)
3。現代は難聴の時代
◇子どもたちのまわりに、あふれる“音”は、どんなものだろうか
*テレビや、街へいけばさまざま音がイヤでも耳に入る(騒音多し)
*大人のイライラした言葉(現在の社会状況・思想状況を反映している)
→「早くしなさい」「ダメです」「なんであなたは」「いけません」などの指示
語、否定語、禁止語の多さ。言葉への信頼を失いかねない状況。
→私たちには、そうした社会状況を変えていく責任がある
*「快く聞く」という経験の少なさ
*自然界のさまざまな“音”に関心をもたせ、耳をすませて聞く体験を
◇人間の言葉は、快いものだという、言葉への信頼を育ませたい
*子どもの心に寄り添った、共感の言葉を
*絵本の言葉の力
4。子どもの「言葉の生まれる芽」は、豊かな体験から
◇体で感じ、でてくる言葉こそ
*言語教育が先行すれば、言葉の数は増しても、ひとつひとつの言葉に
実感がこもらない。
「ことばは、体験をくぐりながら芽を出すもの。体でいろいろなものを
探りながら、やがてことばが生まれていく、そのプロセスを時間をか
けてじっくり楽しんでいる子どもたちから、早く早くことばをひっぱり出
させる必要はないのです」(今井)
◇考えや気持ちを引き出す、応答的会話の大切さ-ここでも「聴く」が大事
*自分の行為を考えたり、気持ちを言語化するための“じっくり対話”を
*「子どもの権利条約」の“かなめ”も、12条の「意見表明権」と言われている。
以上。
次回は、「人間の『労働』について」です。
参加者の感想文です。
「子どもが生活をするための良い環境を整えることを
日々意識するようにしていましが、それだけでなく、
子ども自身が発したい言葉をいつでも発せられるような
状態を保つことも、生まれたときからとても大切なこと
であると思いました。人間は『文字』を持っていることで
文章を残し、世代を越えて蓄積していくことができるという
ところも他の動物にはない貴重な性質だなと今日のお話
を聞いてあらためてよく分かりました」
「『考えること』を改めて考えると難しいですね。考える
ことを語彙力につながるという話を聞いて、もっと本を
読まないとなあと感じました。
子どもの言葉については、日々の子どもたちとの生活
を思い返しながら聞けました。子どもの話を『聴く』ことは
日頃とても気をつけています。何の話でも聴いてあげる
ことを心がけていますが、たまに聞こえなかったり気づ
かなかったりすることもあるので、『聴く』ことのアンテナを
はっておかないといけないと思いました」
「人が豊かなことばを獲得できる社会的環境がほんとうに
貧しくなっている気がします。ケータイやネット社会が子ども
たちに及ぼす影響は深刻です。日々の保育の中では子育
て文化の違い(年代によって)=ことばの豊かさや、コミュ
ニケーションの違いはあると思います。『人はことばでコミュ
ニケーション、信頼が生まれつながっていく』本当にそうで
すし、そういうことが大事にされる世の中にしていくのも、
私たち大人の責任だと思いました」
「耳を傾けて聞く、『聴く』ことが子どもにとってとても大切で
その子どもの成長にも関わっていくことだと改めて感じた。
その中で、信頼関係築けるし、コミュニケーションもとれるし、
自分の中にはない『考え方』とも出会える機会だと思った。
その中で、その子どものが発する意見をありのままで受け
とめること、意味をとらえ間違わないことに気をつけなけれ
ばならないと思った」
「考えることが出来るためには、言葉というものが土台に
なっているのだなと思いました。言葉があるから、考えられ
他人と話すことができると思いました。
後半の話で、子どもの話を聞くというのは、ゆとりも必要
だけれども、聞く側というものも難しいと思いました。『傾聴』
というのも学んできても、人の話に耳を傾けるというのは
本当に難しいなと思いました」
「考えることと、言葉のつながり、そして文字化していくという
ことが流れでわかりました。そのことが生きる力につながって
いくのだと思いました。豊かに考えるベースとしての豊かな
言葉をかくとくするために、読書や新聞を読むことは大切なの
だなと思いました。
『子どもの権利条約』の12条のことを短大時代に少し学習
しました。(略)自分の言葉を豊かに、子どもに耳をかたむける
ということを大切にしていきたいと思いました」
「言葉(言語)の大切さを実感します。また、ふだんの保育に
おいて、自分自身においても、体験を通していない言葉の
違いを考えることがよくあります。以前までは、言葉が体験を
通じてないので、意味がわかっていなかったと思う。少しずつ
でも読書をして、自分の世界を広げたいと思います」
「『聞』と『聴』の違い。同じ読み方でも、意味が違い、保育の
仕事では『聴』の大切さをわかっているけど、なかなか聴けな
い。あらためて『聴』の大切さを感じる」
「長久さんがもみの木のルーツを知る努力をされていること、
今日のお話の『人間の知性』のことろを実践されている姿勢に
学ばされます。後半の部分もおもしろかったですよ。“聴く”、
日々の自分の姿勢も、問い直すこともできました」
(園長先生の感想です(笑))
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