家の片づけと掃除もひと段落・・・。
ちょっと休憩がてら、
『看護実践の科学』1月号を読みました。
川島みどりさんの、特別寄稿、
「ナイチンゲールを超える看護実践とその課題」
~被災地でのケアの教訓から~
は、簡潔ですが、
深い問題提起をふくみ、読み応えがありました。
* * * * * * * * * * * * * *
3月の震災の後、私が被災地にうかがったのは4月の
終わりでした。360度ずっと見渡してみても何もない、
2階の屋根がうずもれ、海にあったはずの船が陸に打ち
上げられ、ランドセルも炬燵も電子レンジも瓦礫と化し
てしまった大地に立ちすくんだとき、19世紀にクリミア・
スクタリの陸軍病院に着き、兵士たちの惨状に出会った
ときのナイチンゲールを思い出しました。そして、もし
ナイチンゲールが今、生きていたら何というだろうか、
何をするだろうかと考えたのでした。
クリミア戦争の終戦後、ナイチンゲールが次々と行っ
た改革の足取り、また、当時の政府や英国王室とのやり
とりを思い返すにつけて、私は「東日本大震災をそのま
ま終わらせてはいけない」「ナイチンゲールに負けない
ように、ナイチンゲールが行なったことを超えて何かを
する責務があるのではないか」と思ったのです。
・・・
ここで改めて手の価値を考えてみます。なぜ今、看護
師の手なのでしょうか。
看護現場の急激な変化と、看護師の意識の変化によっ
て、看護そのもののありようが変わりました。患者さん
や家族の目と、専門職の目は乖離してしまっています。
先に申し上げましたように、看護師は患者に触れること
を忘れて、モニター画面に集中してしまっています。
しかし、被災された方たちはおそらく、看護師の手を
何よりも求めているのではないかと、私は思います。こ
れは被災地だけではありません。世界中の看護論者が、
看護の危機を訴えています。「現代人の多くが、年齢や
性別、さまざまな国籍の如何を問わずskin hunger (皮
膚が飢えている)である」、つまり皮膚が飢えていると
いうのです。触れられない、抱きしめられない、なでた
りされない、そういった人が非常に増えています。
ここ被災地のケアは、機器がなくなっても看護師の身
体ツールがあるのですから、一番の出先機関ともいうべ
き手を使ってできることをすべきではないでしょうか。
そう考えたときに、再びナイチンゲールの看護の原点
に戻りますと、人権、安全性、安楽性を踏まえ、その
人固有の自然治癒力に働きかけるというナイチンゲール
の精神を、具体的に活かす第一歩は看護師の手を用いた
ケアであり、究極が手を用いたケアである、と私は思い
ます。
被災地で、生きる実感、相手の息づかいから、人とと
もにある手。あたたかな思いが手を伝わって体の芯にま
でやすらぎを与えると、よろこんでくださる、すばらし
い笑顔を出してくださいます。何がなくても、手があれ
ば、かなりのことができます。
この世界中に広めたい気持ちを私はTE-ARTEという
言葉に込めました。手のアートです。skin hungerで皮
膚に触れることを忘れているナースが多いとすれば、こ
の考え方と有用性が世界中に広まり、看護の原点に立ち
返ることができると思います。
・・・
ナイチンゲールのすばらしさは、時代を超えて揺るが
ぬ論理にあります。論理・法則性は100年を経ても新し
く、真理です。彼女の論理には、深い洞察力と鋭い批判
力がありました。それは果敢な行動力、統計を基礎にし
た経験知によっています。改革のためには権力を恐れず
発言しました。そして、貧しい人や弱い人へのあたたか
なまなざしをもち続けました。その上で、かぎりない人
脈を活用しています。
いま、まさに社会の期待に応える看護の専門性が問わ
れていますが、「看護は自然が病人に働きかけるように
最善の状態に病人をおくことである」との真理をふまえ
て、「看護師は看護に専心すべきである」ために、「看護
とは何であり、真の看護でないものは何であるかをはっ
きりさせることである」という言葉の意味をもう1度深く
考える必要があります。そこで、足を止めて考えてみま
しょう。現代看護師はこの論理を超えられるでしょうか。
病院には医師中心の体制、既成の概念があります。
ところがナイチンゲールが行なったことは既成の概念に
とらわれない自由な発想です。私は被災地だからこそ
自由な発想が可能だと思うのです。
・・・
みなさん、夢をかかげてください。言語化してください。
人びとは何を求めているでしょうか、どうしたらそれが
実現できるでしょうか。今、看護師のハートと手が必要
なのです。
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小見出しを紹介すると、
*ナイチンゲールが行ったことを超えて
*技術の発展や開発がもたらした矛盾
*看護する前に環境の調整から
*たったひとりの勇気ある女性
*「すべての病気は回復過程」
*医療のもう1つの道
*看護の原点としてのTE-ARTE
*既成の概念にとわられない発送を
*現地完結型の看護・介護システム
*ケアコミュニティづくり
*医療の考え方の転換を
*新しい医療のしくみを東日本から発信
<以下蛇足>
川島さんは、ナイチンゲールの「必要とあれば
権力を恐れずたたかう」姿勢を紹介したところで、
マルクス・エンゲルス全集からの引用をしています。
同じ時代を生きていたマルクスは、もちろん
ナイチンゲールについて知っていましたし、
妻のイェンニーはナイチンゲールの大ファンでした。
全集の中で、ナイチンゲールが
2か所登場する(ほとんど同じ内容)ところがあります。
さすが川島さんですね、それを引用するとは。
学習運動的にも、うれしい論文でした。
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