きのう(21日)は、77期岡山労働学校「いまこそ経済学教室」の
第1講義でした。テーマは、
「目にみえないものを見る-商品にひそむ2つの性質」でした。
この日で、通し受講は、運営委員ふくめて23名にまで増え、
前期の受講生数から前進! 石川講演の影響が大きかったです。
さて、岡山労働学校では、講義前の15分間(18時30分~45分)、
「ワンポイント講座」ということで、参加した受講生が、
趣味のことや仕事のことや気になっていることなど、
なんでもしゃべっていいコーナーがあって、きのうは、
とある学生のKくんだったのですが、Kくんは、
『理論劇画 マルクス資本論』を読んで、「ここが私はポイントだと思う」
ということを語ってくれました。
Kくんは、夏までに資本論そのものを
読破したいと挑戦中です。
黒板をつかって
説明するKくん。
すごいぞ!
みんなも「おー」という感じで聞いていました。
で、私がお話した第1講義ですが・・・。
きのうは、受講生どうしの交流時間も
特別につくっていたので、50分間の短縮バージョン。
自分なりに、わかりやすく説明した
つもりだったのですが、なかなか難しかったようです。
こういう話をするときは、「何を言い、何を言わないか」の
選別が非常に難しい。
結局最後の5分間の説明になってしまった
「労働の二重性」のところで、混乱する人も・・・。
あと、私もひと言が足りなかったと思うのですが、
一般的な法則を説明しているのですが、何事にも「例外」はあるということ。
「あの場合はどうなのか、あの場合は・・・」といろいろと
考えてしまい、理解を妨げることにもなってしまうことも
あるようでした。
いずれにせ、さまざまな疑問が出されることで、
「なるほど、ここでひっかかるのかぁ」ということも分かり、
講師も成長させてもらっています。
また、講義後の班討論の中身が、
いつもの教室にも増して重要になりますし、
きのうも「班討論で少しスッキリした」という
人が多かったようでした。
3グループに
分かれての班討論。
きのうは、全体で
19名の参加でした。
班討論のあとは、
初めての人も多いので、「自己紹介交流ゲーム」を
30分ほどしました。これがなかなか良いのです。
ワイワイといい雰囲気。これからがとても楽しみです。
では、以下、講義の概要です。
一。経済学を学ぶにあたって
1。私たちの学ぶ『経済学』とはどういうものか
◇「お金もうけ」の学問ではありません
◇「経済現象」をただ追っていくだけでは、経済を学ぶことにはなりません
「ありのままの諸事実を知っていることが必要であるといっても、
たとえば、仕事がきつい、賃金が低い、物価が高いといった労
働者の苦しみなどを、ただ“なま”のままでならべたててみても、
それ自体では、そういうありのままの諸事実(現象)の正体(本
質)、いいかえればそれらがひきおこされる根源(ほんとうの原
因)があきらかにならない、したがって、それを変えたり、なくし
たりしていく道がみいだせない、ということです」
(金子ハルオ『経済学(上)』、新日本新書、1968年)
*ものごとには、かならず 原因があって結果 がある。
2。「資本主義の病理学者」、カール・マルクス(1818~1883)
◇中心著作は『資本論』(第1部は1867年刊)
*「剰余価値」のしくみを明らかにした
*「利潤第一主義」(剰余価値の生産をなによりの目的・動機とする)が、
資本主義の社会悪の、根源をなす病理とした。
*人間社会は資本主義で終わりではないこと、資本主義をのりこえた
次の社会を科学の目で展望した。
二。商品とは
1。『資本論』冒頭の一節
「資本主義的生産様式が支配している諸社会の富は、『商品の
巨大な集まり』として現われ、個々の商品はその富の要素形態
として現われる。それゆえ、われわれの研究は、商品の分析か
ら始まる」 (『資本論』第1章、59P)
2。なぜ「商品」の分析から始めるのか
◇「剰余価値」「資本」「貨幣」も、「商品」を分析しないと、その本質を
理解できない
◇私たちは、商品(他人がつくりだしたモノやサービス)に囲まれて
生活している
「僕は、床の中で暗くしてある電灯や、時計や、机や、畳や、そ
のほか、部屋の中にあるものを、次から次へと考えて見ました。
そうしたら、どれもみんな、ラクトーゲンと同じでした。とても数え
きれないほど大勢の人間が、うしろにぞろぞろとつながっている
のです。でも、みんな、見ず知らずの人ばかりで、どんな顔をし
ているんだか、見当はつきません」
(吉野源三郎『君たちはどう生きるか』岩波文庫、1982年)
◇商品の歴史的性格
*例にあげたコペルくんのような状況は、資本主義になってからの
特徴。生産物のほとんどが、「商品」として現われる資本主意社会
は、社会的分業の高度に発達した社会。
3。商品とは何か-その二つの性質
①商品はまず第1に、人間のなんらかの必要・欲求をみたす(有用性と
いう)性質をそなえているもの → 使用価値といいます。
「これらの欲求の性質、すなわち欲求がたとえば胃袋から生じるか
想像から生じるかということは、事態をなんら変えない。ここではま
た、どのようにして物が人間的欲求を満たすか―直接に生活手段
として、すなわち享受の対象としてか、それとも、回り道をして、生
産手段としてか―ということも問題ではない」
(『資本論』第1章59-60P)
「物のいろいろな使用の仕方とを発見することは、歴史的な行為で
ある」 (同上、60P)
*使用価値は、それぞれの商品に備わっている属性です(商品そのもの)。
②他のものと交換されるという性質(自分で消費しない)→ 交換価値といいます。
1台のテレビ=A着のスーツ
5個のコロッケ=B本のペン
りんご10個=メロンC個
*交換されるということは、種類のことなるふたつの商品のなかに、そ
れらを比較して、おなじ尺度(共通の単位)ではかれるようななんらか
の「共通のもの」が必要ということ。交換の基準が必要。それは何か?
・使用価値?・・・ではない。同じ使用価値のものを交換しても意味がない。
*あらゆる商品に共通するものって何でしょうか?
*すべての商品は→ 人間の労働 によってつくられたということ
どんな商品にも、人間の労働が結晶している
この「共通する尺度となるもの」を、価値といいます。
価値は、目には見えません!
(ここで使う「価値」とは、日常的に私たちが使う「値打ちがある」
「大切な」という意味ではありません)
◇二つの性質をあわせもたない場合は商品にはならない
*価値は持たない(人間労働がふくまれない)が、使用価値(有用性)をもつ
もの。
*人間の労働生産物であるが、商品にならないもの。
◇まとめ。商品は、使用価値であると同時に、価値である(二重の性質)。
4。商品の価値の大きさはどうやって決まるか
◇その商品にふくまれている価値の大きさが、商品の価格(ねだん)を基礎
づける
「商品の価値の大きさは、その商品を生産するのに社会的に
必要な平均労働の分量(=労働時間)によってきまる」
*つまり、その商品をつくるのに、どれだけ手間ひまかかったのかということ。
・「=」は、つぎ込まれた労働の分量が同じ、という意味
1台のテレビ=A着のスーツ
5個のコロッケ=B本のペン
りんご10個=メロンC個
*需要と供給の関係で「価格」は上下するが、「価値」の大きさから大きく
離れることはない。
5。商品を生み出す人間労働自体の二重性
◇マルクスも自慢した「発見」
「商品に含まれる労働のこの二面的性質は、私によってはじめて批判
的に指摘されたものである。この点は、経済学の理解にとって決定的
な点である」 (『資本論』第1章、71P)
◇使用価値をつくる「具体的有用労働」
*コロッケをつくる労働と、ペンをつくる労働は、同じではない(あたりまえ)。
*それぞれ、つかう原材料や労働用具が違い、またその労働の具体的な
やり方が質的に違います。したがって、その具体的な労働を比較するこ
とはできません。
*こうした、それぞれの商品をつくる具体的な労働のことを、マルクスは
「具体的有用労働」と言いました。
*この「具体的有用労働」が、商品の「使用価値」をつくります。
◇価値をつくる「抽象的人間労働」
*上のような具体的な労働の“あり方”“かたち”をとりのぞいてみると、
そこに共通するものが浮かびあがってきます。
*人間の脳や神経、身体や筋肉の生産的エネルギーを支出している、
という点です。それぞれ、社会が必要とする生産物を生産するという
点では、おなじ人間の労働という、共通の性格をもっています。これを
マルクスは「抽象的人間労働」と言いました(目に見えません)。
*この「抽象的人間労働」が、商品の「価値」をつくります。
◇こうした「労働の二重性」から見えてくるもの
次回は
「カネ!カネ!カネ!-資本主義社会における貨幣の役割」です。
お楽しみに!
以上。
講義録はこちら。
090521_001.mp3をダウンロード
受講生の感想文より。
「一言で言えば難しかったです。頭の中であれはどう
かな?とか色々考えてしまってパニックになりました。
皆に話を聞いて少しずつ分かってきました。少し頭を
やわらかく考えていった方がいいと思いました」
「『価値』の意味が班討論で理解が深まり、やっぱり
独学には限界があるなと思った今日1日でした。これ
からもよろしくお願いします!」
「使用価値と価値の意味を理解できたかどうかは分か
らないが、これから勉強して、少しでも自分で説明で
きるようになりたいと思いました」
「商品という言葉は日常でけっこう気軽につかわれる
言葉だと思うのですが、そこに2つの性質が含まれて
いるのには目からウロコでした」
「今日なんとかついていけました。使用価値、価値。
今まで深く考えたことがありませんでしたが、今回学
べることができてよかったです」
「まだ完全には理解できていないけど講義はわかり
やすかったと思います。なんとかやっていけそうです」
「『難しかった』という一致点で、討論はみんながひとつ
になれた気がします。分かったつもり・・・のコトでも講義
で改めてとりくんでみんなで深めるのが大切だなーと
思いました!」
野澤さんありがとうございます。
楽しみにするほどの講義ではないと思いますが、
「わかりやすさ」を追求して、がんばって準備していきます。
恥をさらすつもりで講義録はアップしています。
投稿情報: 長久 | 2009年5 月25日 (月) 19:02
はじめまして。土曜日の投稿では、挨拶もなく突然のコメント
で、しかも講義録のアップの催促をしてしまい失礼しました。
次回からは、内容ある感想を書き込ませていただきたいと思います。
講義録がアップされる日を、楽しみにお待ちしています。
投稿情報: 野澤 | 2009年5 月25日 (月) 17:45
はじめまして(かな?)、野澤さん。
次回以降も、毎回講義録はアップします。
よければ聞いてください。できれば感想もお願いします!
投稿情報: 長久 | 2009年5 月24日 (日) 12:58
とてもわかりやすい講義で、次回の「カネ!カネ!カネ!-資本主義社会における貨幣の役割」も聴いてみたくなってしまいました。次回もダウンロード(講義録)していただけないでしょうか?
投稿情報: 野澤 | 2009年5 月23日 (土) 21:19
あはは。あれです、あれ。
来週は「貨幣」「資本」がでてきて、
もっとおもしろい・・・。ふふふ。
投稿情報: 長久 | 2009年5 月22日 (金) 20:54
商品にひそむ2つの性質
資本論の最初の方にでてくる『あれ』ですよね・・・いまだに良くわかりません
orz
投稿情報: カゲ茶 | 2009年5 月22日 (金) 20:01