きょう(4日)の夜は、77期岡山労働学校の第3講義でした。
テーマは、
「いよいよ最大の謎解き!-賃金と搾取のヒミツにせまる」です。
『資本論』でも、最大の山場のひとつです。
というか、ここがわかれば、労働者の世界観が
かなり変わります。
私も、労働学校で科学的社会主義を学んだとき、
一番印象に残ったのが、搾取の話、でしたから。
参加は19名。
今夜も討論が
活発でした。
講義内容は、以下です。
かなり自己流の展開になっていますので、
「それはどうか」と思った方は、こそっと教えてください(笑)。
今回のレジュメは、図での解説が多かったので、
まず、レジュメそのものを、PDFでのっけておきます。
こちらです。chinnginn_to_sakushu.pdfをダウンロード
で、「図なし」の講義概要は、以下です。
一。前回までのおさらい
(省略)
二。労働力とは何か?
1。労働者は、労働力という「商品」を時間決めで売っている
◇「労働」と「労働力」は違う
*「労働」は、生産手段(土地、建物、機械、原材料など)と労働力が
結び合わされないと行なえない。労働者は、「労働」は売れない。
*「労働力」は、労働者の体に備わっている、身体的・精神的エネル
ギーのこと
◇「奴隷」と「労働者」の違い
*奴隷は、その肉体、人格もふくめて、人間まるごとが商品となり、
奴隷主の所有となる。
*労働者は、自分の体に備わっている「労働力」のみを資本家に売る。
(図省略)
◇そもそも、労働者とは・・・
*厳密に定義すると、「はたらく人」=「労働者」 ではありません。
*では、労働者とは、だれのことか。
◇「お金」をどうやって手にいれるかの違い
(図省略)
【二重の意味での自由】
①自分の労働力を自由に売ることができる。人格的な自由。
②しかし、自分の労働力を売る以外に、生きていけない。生産手段から
の「自由」。
◇労働者と言われる人々の特徴
(図省略)
三。労働力の価値(賃金)の大きさはどう決まるか
1。労働力も商品ということは…
◇他の商品と同じように、「使用価値」と「価値」がある。そして、価値の
大きさは、
「労働力の生産に社会的に必要な労働時間の
大きさによって決まる」
*そして、「価値」を基礎に、売買がされる。
◇「労働力を生産する」ってどういうこと?
(図省略)
2。労働力の価値の3つの要素
①労働力の所有者である労働者本人の生活費。
*「明日も、来週も、来月も」元気に働けるエネルギーを補充するため
に。衣食住の費用。さまざまな必要・欲求を満たす商品・サービスに
かかる費用。
②家族の生活費。養育費。
*労働者は、いつかは寿命がつきたり、老齢となって労働することが
できなくなります。しかし、労働力はたえず市場に補充されなければ
なりません。そのためには、次の労働者を育てることが必要だからです。
③知識・技能・熟練に必要な養成費。
*特定の知識や技術や熟練を身につけるために支出される養成費も
必要です。
☆ここに注意!
労働力の価値どおりに賃金が支払われても、
資本家はもうけ(剰余価値)を獲得する!
◇商品売買の基本は、等価交換というのが原則です。
◇資本家は、等価交換をつうじて、合法的に価値を増やすのです。
◇そのしくみを、マルクスは解明しました。
*ただし、価値どおりに賃金が払われていないのが、今の日本の現実です。
*価値を基礎としながらも、実際の賃金は、労働者と資本家の力関係で
決まってくる。企業単位の力関係および、社会的に見た労働者階級と
資本家階級の力関係(最低賃金制度、労働法制破壊による非正規労
働者の増大、春闘など)。失業者の増大も全体の賃金を押し下げる力に。
四。搾取のヒミツ
≪今日の学習の前提として≫
①今日の「搾取のしくみ」の学習は『生産労働』でのしくみであること。
簡単に言えば、「ものづくり」をしている職場です
(図省略)
*商業、金融、サービス、公務労働など、生産労働以外の「搾取のし
くみ」は今日学習するものとは若干違ってきます。しかし、今日学習
する内容が、「搾取形態」の基本となりますので、これをまず理解す
ることが大事です。
②今日学ぶ内容は、純粋な理論学習ですので、わかりやすいように生
産過程の定式や数値などはかなり単純化しています。実際の搾取形
態はもっと入り組んでいて複雑ですが、今日学ぶような基本的なしくみ
を押さえることで、より具体的な事例を理解することが可能になります。
今日はそうわりきって学んでください。
1。資本とは何か(先週のおさらい)
◇私たちが労働力を売るのは、「使用価値」(商品)が必要なため
商品 - 貨幣- 商品 が私たち(労働者)のお金の流れ
◇これに対して、資本家が労働者の労働力を買って商品生産をする流れは…
貨幣 - 商品- 貨幣 ということ
しかもここで重要なことは、はじめの貨幣量よりも、おわりの貨幣量が
大きくなるということ。減ったり、同じ量では意味がない。
(図省略)
この運動の目的は、貨幣の増加、つまりより大きな貨幣(価値)の
獲得にあること。 資本=自己増殖する価値のこと。
では、なぜ「はじめ」より「おわり」が大きくなるのか。
2。搾取のヒミツの解明
労働力という商品の独特の性質をつかむこと
が大事!
①労働力の1日分の価値と、その労働力の1日(ここでは分かりやす
いように8時間労働とする)の使用があたらしくつくりだす価値は、
大きさが異なる。
②そして、それは必ず、後者の方が大きい。
(図省略)
◇生産力の高い発展段階
*なぜ、「労働力の価値」よりも、「労働者がつくりだした新しい価値」の
ほうが大きくなるのか。それは、資本主義的生産が、高い水準の生産
力をもち、「自分の生活を維持していく分(労働力の再生産費)」よりも
多くの価値を、契約した時間内の労働で生み出すことができるのです。
*そして、この「労働力」という商品の特別の性質が、資本家が労働者
を雇って労働をさせれば、より大きな価値が得られる、隠されたしくみ
になっているのです。
◇図式にしてもう一度(単位を億にしてます)
(図省略)
*労働者がつくりだした新しい価値
新商品の価値(16億円)-生産手段に投じた価値(8億円)=8億円
*剰余価値(利潤)
労働者が新しくつくりだした価値(8億円)-労働力の価値(2億円)=6億円
この6億円のことを、マルクスは 剰余価値 と呼びました。
*このしくみを、労働者の1日の労働時間で考えてみましょう
(図省略)
このように、自ら労働して価値を生み出さないものが、他人の労働の
成果の一定部分をうばいとることを、搾取(さくしゅ)といいます。
*搾取は、原始共産制社会以降の、いつの時代にもありました、しかし・・・
資本主義の搾取は目に見えないのです!
たとえば封建制社会では…
(図省略)
◇実際の賃金形態が、搾取の本質をつつみかくす
*労働者の賃金はたいていの場合、月末払い。つまり後払い。労働者
は資本家に、労働力商品の信用貸し(簡単に言うと“つけでいいよ”)を
している!私たちが多く体験する商品売買(前払い)と形態が違う。
*パート労働者は「時間給」→何時間働いたかによって賃金が決まる。
*成果主義賃金→どれだけ働いたか、成果があがったかで賃金が決まる。
こういう体験を通じて、どれだけ働いたか=賃金の大きさ という
観念ができあがる。「労働の価格」のように見える。
「現実的関係を見えなくさせ、まさにその関係の逆を示すこの現象
形態は、労働者および資本家のもつあらゆる法律観念、資本主義
的生産様式のあらゆる神秘化、この生産様式のあらゆる自由の
幻想、俗流経済学のあらゆる弁護論的たわごとの、基礎である」
(『資本論』第17章924P)
「現象形態は、直接に自然発生的に、普通の思考形態として再生
産されるが、その隠れた背景は、科学によってはじめて発見され
なければならない」 (『資本論』第17章928P)
まとめ。
資本主義社会の搾取は、
学習しないとわからない!
労働者は、学ばなければ、かしこい労働者にはなれない。
四。商品の“命がけの飛躍”
これまでの話は、つくった商品がきちんと「売れる」という前提で
お話をしてきました。ところが、実際はそうではないことは、みな
さんもよく知ってのとおりです。
1。売れるかどうか、わからない
◇もう一度、「資本」の基本運動をおさらいしましょう。
貨幣 - 商品 - 貨幣 ということでした。
最初の「貨幣-商品」はスムーズに進行します。
が、「商品-貨幣」はそうはいきません。マルクスは、この過程
を「命がけの飛躍」と名づけました。なぜか。
商品が実際に売れるかどうかは、
市場に出てみないとわからないからです。
その商品を買ってくれる需要が実際にどれだけあるのか、同じ商品
をつくる業者がどれくらいいて、どれだけの商品をどんな値段で売り
にだすのか、そういう事情は固定したものではなく、たえず変動して
います。
*自社の「新商品」の開発がうまくいくかどうかわからない
*他社が自社の商品よりすぐれた商品をつくりだすかもしれない
*他社の生産技術が進歩し、より安い価格で同じ商品を売りだすか
もしれない
*その商品の供給が、需要より上回っているかもしれない(過剰生産)
だから、せっかく商品をつくって売りにだしても、買い手がみつから
なかったり、市場での売り値が下落してその商品の生産にかかった
もとの費用も回収できなかったり、資本家はそういう危険にたえ
ずさらされています。これは商品生産の社会の、ぬけだすことので
きない宿命です。
2。資本家どうしの「命がけの競争」が宿命となる
◇競争の敗北者は、倒産・廃業します(労働者の失業をともなう)
*この法則は、資本家どうしの激しい競争とある部分の敗北、没落とい
う形で、多くの社会的悲劇を生みながら作用します。
◇搾取強化へ
*より大きな資本をもとでにし、より高い生産力・生産技術・販売方法を
生みだし競争力を強化して、商品を売り続けることを資本家は
強制されます。したがって、資本家の利潤獲得欲求には限度が
ありません。
*そのために、できるだけ大きな剰余価値の獲得=労働者への搾取
強化(労働者への犠牲)をすすめるのです。来週はそのお話です。
以上。
講義録はこちら。
(別エントリーでアップします)
学生さんの感想文より。
「最大の謎解きということでしたが、なんとなく
理解できた気がする。班討論で理解を深める
ことができたと思う」
「本を読んで解った!と思っても、それを他人
に理解してもらうことがいかに難しいか?が
よくわかった・・・」
「後払いの制度が賃金の仕組みや本質を見え
にくくしていることが印象に残りました」
「若い頃に学習した内容だったのでわかりやす
かったです。予習もしてきたし・・・(立派!)。
『もうかる物なら何でも良い』というのは恐ろし
いですネ。採算があわなくてもおいしいトマト
を食べたいと思いませんか? 労働力は商品
なので、先払いというのは、新発見?でした。
労働者の力はすごい!」
「搾取の仕組みが分かった気がします。学習
しないと分からないことが、世の中にはいっぱい
だな~」
「資本家の意思とは関係なく価値が増殖される
サイクルのしくみにしばられることが理解でき
ました」
野澤さんいつもありがとうございます。
マルクスはヘーゲル弁証法を駆使して
『資本論』を書いているので、
哲学の学習もほんと必要なんですよね…。
投稿情報: 長久 | 2009年6 月 8日 (月) 08:06
「本質と現象形態の関係」をマルクスと同じように説明していると思われる本を見つけました。
第3講義の「資本と賃金との関係」を説明しているのではないかと思います。
・・・引用→175ページ ↓
本質は現象の背後や彼岸にかくれていて、人間にとってついに不可知なものではなく、
必ずそれは現象するものだということである。
したがってわれわれは現象を通して本質を認識することが可能となるのであり、
また逆に、本質によって現象を説明することができるのである。
(『論理学』世界思想社 1987年初版)
投稿情報: 野澤 | 2009年6 月 6日 (土) 21:08