知ることの楽しさはかけらも感じない、
どちらもまったく重たい内容の本だったけど、
今回読めて、ほんとうによかった。
2冊に共通することは、
戦争の現場、戦争のおぞましさ、
戦争がもたらす底知れぬ痛みと慟哭について、
誰よりもそれを知っている、
兵士のリアルな言葉がつづられているということ。
そこに、「戦争とは何か」を知り、考えるうえで、
絶対にスルーしてはいけないものがあるということ。
このことである。
『戦争における「人殺し」の心理学』
(デーヴ・グロスマン、安原和見訳、ちくま学芸文庫、2004年)
人間は、同類の人間を殺すことへの、
強烈な抵抗感が存在する…!
このことを、さまざまな軍事研究や、
兵士の証言から明らかにしているのが、
本書のなによりの特徴である。
第2次世界大戦で、米軍の戦闘行動について
調査したところ、敵と遭遇した米軍兵士のなかで、
敵に向かって発砲できたものは、わずか15%~20%。
兵士には人が殺せない。
この衝撃的な事実を、米軍は重視し、
その後の訓練法に生かすことになる。
その結果、朝鮮戦争では発砲率が55%に。
ベトナム戦争では90%~95%まで上昇した。
人を殺すことへの抵抗感を克服するための
システムと訓練法を、米軍は構築していったのだ。
・権威者の要求
・集団免責
・犠牲者との総合的距離
この3つが、「人を殺せるようになる」ために
作用する有力な条件と指摘している。
そのメカニズムを細部にわたって検証していて、
非常に説得力がある。
訓練法でいえば、海兵隊などの訓練などで
いまではかなり知られているが、
兵士は、考える間もなく、条件反射的に人を殺せるように
ように「プログラム」される。
自分も相手も、非人間化される。人間を感じさせなくさせられる。
しかし、どんなに人を殺せるようなシステム、
訓練が開発されても、
自分の手で人を殺す、ということに対する抵抗感、
嫌悪感がなくなるわけではない。
だからこそ、PTSDなどの精神疾患に
帰還兵は苦しめられる。
人は、人を殺せないのだ。
それを可能にするのは、人間がつくりだした兵器やシステムである。
だったら、そのシステムをなくしてしまえばいい。
「殺人への抵抗が存在することは疑いをいれない。
そしてそれが、本能的、理性的、環境的、遺伝的、
文化的、社会的要因の強力な組み合わせの結果
として存在することも間違いない。まぎれもなく存在
するその力の確かさが、人類にはやはり希望が
残っていると信じさせてくれる」(96~97P)
『冬の兵士-イラク・アフガン帰還兵が語る戦争の真実』
(反戦イラク帰還兵の会・アーロングランツ、TUP訳、岩波書店、2009年)
帰還兵から語られる、イラク戦争の現実、
占領の現実は、おぞましいとしか言いようのないもの。
アメリカでも、日本でも、こうした戦争の現場の
リアルな実態は、マスコミを通じてはまったく伝わってこない。
しかし、帰還兵たちが、自らを組織化し、
勇気をもって証言をしはじめている。
私は読みながら、広島や長崎の被爆者の
証言やたたかいと重なって、彼らの言葉を受けとめた。
どんなにこの言葉を発するのに、葛藤と勇気が
必要だっただろうかを、考えてしまう。
しかし、彼らの言葉こそが、戦争や軍隊のリアリティーを
私たちに伝えてくれる。
内容は、うちひしがれるものばかりだけど…。
もう1つ考えたこと。
それが、言葉のもつ力の大きさである。
危険な力という意味での側面から。
米軍、とくに海兵隊などで使われている
言葉の、汚さ、卑猥さ、乱暴さ、攻撃性・・・。
「やられるまえに、やっちまえ!」
「2等軍曹、おはようございます」「おう、殺っちまえ」
(あいさつのようにかわされている言葉)
「あいつらはハジさ。それがどうした」
(ハジとは、イラクやアフガンの民間人のことを侮蔑して使う言葉)
「殺せ!殺せ!殺せ!」
ここには書くことをはばかれる言葉も・・・。
以前読んだ本で、詩人の谷川俊太郎さんが、
「人間は言葉でできている」と言ってたと記憶してるが、
人間らしさをつむぐものも言葉であり、
人間らしさを奪うものも、言葉なのだと感じた。怖い。
しかし、本書をつうじて強く心を動かされたのは、
こうした人びとがアメリカで運動をしているということ。
たいへんな勇気をもらったし、
アメリカも、必ず変わるんだと確信することができた。
さいごに、ハート・バイジェスというひとりの帰還兵の
「魂の戦士」という短い詩を紹介。
戦争の現場を体験した人の言葉を重みを感じる…。
魂の戦士はライフルを置き 自らの心を手にする
弾丸ではなく 言葉をもつ
教条ではなく 心の声に耳をかたむける
秘密暗号ではなく 自身の感覚と考えをしんじる
領土を奪うのではなく 知性を拡張する
狙いをつけるのではなく 分別をつける
人びとを引き裂く要塞を築くのではなく
魂の戦士は
全人類と手をとりあって成長していく
お返事をありがとうございます。お許しをいただいたのでウェブ担当に伝えます。ありがとうございました。
昨秋、証言集の出版を機に帰還兵2名が来日し、西日本と沖縄で複数の証言集会をもったのをご存じでしょうか。TUPのホームページから当時の記録(ブログや新聞記事、NHK衛星など)のいくつかにリンクがはってあります。良かったらご覧ください。今年も同様の動きがあります。具体的になったらまたお知らせにあがります。
また、証言集を朗読する試みが各地で行われています。本書を読み合わせたり朗読する機会がありましたら、どうぞお知らせください。ありがとうございました。
投稿情報: 藤澤みどり | 2010年1 月23日 (土) 13:57
藤澤さんはじめまして。コメントありがとうございます!
つたない紹介でしたが、HPでの紹介をしていただいてもまったく構いません。
TUPという活動も、本書をつうじて初めて知りました。たいへん意義ある活動だと思います。
証言をしてくれた兵士たちの言葉の重みを、たくさんの人に広げたいですね。
投稿情報: 長久 | 2010年1 月21日 (木) 09:42
はじめまして。「冬の兵士」の翻訳を担当したTUPの一員です。「冬の兵士」をお読みいただき、またブログで紹介していただき、ありがとうございました。このページをわたしたちのホーページで紹介させていただいていいでしょうか。
http://www.tup-bulletin.org/
ご指摘のように「冬の兵士」では、読み続けるのがつらくなるような戦場の苛酷な実態が次から次へと証言されています。これを広く人々に伝えたいというのが、わたしたちが証言の翻訳に取り組んだ動機の一つでした。
しかし、その一方で、証言を決意した若い兵士たちの絶望の深さと、そこから立ち上がった勇気に感動してという動機もたいへん大きかった。ですから、そこに希望を見出してくださるといっそうの喜びを感じます。ほんとうにありがとうございました。
投稿情報: 藤澤みどり | 2010年1 月20日 (水) 21:04