自宅の本棚で別の本を探していたら、たまたま、
『学習する組織―現場に変化のタネをまく』
(高間邦男、光文社新書、2005年)が目に入って、
以前読んで線を引っぱっているところをパラパラと眺めてみる。
(読んだのは5年ほど前)
うーむ、「なるほど」ということが
たくさん書かれている
本書の対象となる「組織」はもちろん営利企業なんだけど、
「目標・理念」をもって動く組織や運動に普遍的な「組織論」がある。
もっともっとわが陣営は、資本主義が日々生み出している、
こういう組織論に学ぶべきだと思う。
もちろん、この本のすべてが正しくて、すべて適用できるなんて
思ってないけど、吸収できるところがあれば、それを貪欲に吸収する。
それが科学的社会主義の学習態度・活動スタイルであるはずだから。
以下、自分の活動をふりかえりつつ、自戒の意味もこめて、
本書からのメモをつくってみました。
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どんな会社や団体の組織でも、そこに所属するメンバーが
仲間どおしで自分の組織について語り合うときが」あると思う。
上司や同僚について辛口の寸評を述べる人もいれば、組織
をこう変えていかなければならないといったビジョンや想いを、
熱く語る人もいるだろう。
その話の傾向には2つのエネルギーの方向性がある。
1つは、あの人のあそこが駄目だ、この会社はここが駄目だ、
あれが足りない、これが足りない、という話し方になっている
場合である。この傾向のときは、自分を守りながら攻撃をし
ているので、語っている本人が受身の場合が多いようだ。
ものごとを他責にしてしまい、自分自身を積極的で主体的な
存在として捉えていないことに、本人が気づいていない。
もう1つは、組織をこうしなければならない、こうしていきたい
という話し方になっている場合である。このとき、語っている
本人は主体的である場合が多い。
話の内容は似ていても、それぞれのエネルギーの方向性
は異なる。主体的な話し方をする人は当事者感覚をもっている
ので、自分自身の内に組織や周りの人に働きかける力を
秘めているかもしれない。こういう人こそが組織変革を進めて
いく推進者、言い換えるとチェンジ・エージェント(変革を推し
進める伝道師的役割の人)になる可能性がある。
しかし、何とかしたいと思っても、どうしたら組織に影響を
与えることができるのかが分かりづらい。自らの最初の1歩を
踏み出すことは難しいのである。(中略)
本書は、組織の中にいて組織を変えていきたいと思っている
人と、居酒屋で一緒に方法について語り合う(ダイアログ)よう
な内容にしたかった。難しい理論を解説するのではなく、現場
の生きた知識を交換し合うような分かりやすい語りで、組織を
変革するにはどうしたらよいのか、その方法を探求してみたい
と思う。
これ1つさえやれば組織は必ずよくなるといった施策は存在
しない。組織を生態系として捉え、様々な影響関係を押さえ
ながら、時間をかけて働きかける必要がある。組織に肥料を
施し耕して土壌を変え、光や水を与えて組織を成長させていく。
そのプロセスを通して、組織のメンバーが情熱を持って自らの
仕事を通した変革に主体的に取り組むようになり、高い成果・
業績を生み出す組織を作っていくことができる。
改めて確認できたのは、業績がよい組織ほど、目標設定が
きちんとできているということだ。上位組織の目標が所属組織
の目標にきちんとブレークダウンされ、さらにメンバー1人ひとり
の目標に連動している。
組織を変革するには目的がある。組織が何のために存在
しているのかが「ミッション」とすると、そのミッションを実現し
ているありありとした姿が「ビジョン」である。そして、守るべき
理念・行動指針といったものが「バリュー」である。ビジョンを
異なる視点から見たのが「ゴール・目的」である。ゴール・目
的は、売上高であったり、利益額、市場占有率など、いろいろ
ある。
これらは、組織ではかなり上位にある概念だ。こういった
上位概念を実現するために戦略や経営計画・事業計画が
ある。これが組織のメンバー全員に共有化されているかどう
かが、組織変革の出発点として重要である。共有とは、理解
が「分かっている」だけなのとは異なり、自分のこと・自分の
ものだと思っている状態である。
強い組織は、こういった上位にあるミッションやビジョン、
バリュー、ゴールといったものと、事業部の計画、部・課の
事業計画、個人の目標といったものが、「一気通貫」に通っ
ている。個人の目標を見るだけで、その組織が何を実現し
ようとしているのかが匂ってくるのだ。
それは、数字を積み上げていることを指すのではなく、
想いを積み上げているイメージである。組織の想いも個人
の想いも繋がっているのである。しかし、繋がり方は昔の
滅私奉公とはもちろん異なる。
人と組織が共に成長できるようにするには、どうしたら
よいのだろうか。それには、働く個人が組織に対して期待
し、依存するだけでなく、組織と個人が一体となって互いの
成長に貢献し合う関係を構築することが必要である。
「組織が成長することが、自分の成長や働きがいを高め
る」という捉え方。
トップが人材育成に関心を持ち、ことあるごとにビジョンを
語る組織は強い。
組織のビジョンやミッション(使命)が会社案内や経営計画
に載っていても、メンバーは誰も本気にしていない。絵に描い
た餅のように思っている。そして、戦略的なゴールや目標が
一部の人だけで決められてしまい、それらの検討に参画して
いないメンバーにとっては、指示・命令と受け取られ、強制さ
れたノルマになってしまう。
メンバーは上からしつこく言われるので仕方なしに現場で
実践するが、主体的な意欲を持っているわけではないので、
「言われたこと」「指示されたこと」しか実践しない。
まずリーダーは、ミッションやビジョン、想いを語るところ
からスタートする。(略)たとえ小さな職場でも、リーダーが
「自分たちの職場をこういう状態にしていきたいのだ」と
メンバーにことあるごとに熱く語っているところは業績が
よい。
このとき標語やスローガンを提示するだけでは、メンバー
の心をつかむことができない。リーダーの想いを「熱く」
語る必要がある。これを「ビジョンのシェア、分かち合い」
という。
もちろん、ビジョンやミッションの背景にある状況なども
語る必要があるのだが、第一に、ビジョンをありありとした
具象的なイメージとして伝えなければならない。言い換え
ると、これから起きる物語(ストーリー)を語るのである。
次に、ゴールや目標を設定するが、それにはメンバーが
参画していなければならない。お互いに、どういうことを
やりたいのか、どのような役割をするのかを、話し合いの
プロセスを通して共有化する。そして、なぜそのような目
標を立てるのかという背景や状況を理解しあい、その上で
目標を決めていく。
もちろん多数決を行うわけではないから、メンバーそれ
ぞれの思い通りの目標にならない場合も多い。しかし、
自分の言いたいことは言ったし、それを上司や周りの人は
聞いてくれたということが大事なのである。
こうして立てられたゴールや目標は、自分が主体的に
関わって作ったものなので、「内発的動機付け」がかかる。
強制されたから、賞罰があるからやるのではなく、自らの
内面にある達成意欲から行動が生まれてくる。この内発的
動機のあるなしが、組織業績に大きな影響を与える。
メンバーが主体的に動かない、熱意がないと嘆く前に、
この目標設定のやり方を変える必要がある。
私は、学習者は、自分が接する社会的な領域の中で、
最も高いエントロピー(エネルギー、キラキラ度)を持つ
人間のレベルまで、追いつく可能性があると考えている。
どのような職歴を経たかではなく、誰の下で働いたこと
があるかということが、高いキャリアを積んで高いパフォ
ーマンスを発揮している人に影響しているのではないだ
ろうか。だから特定の人物の下から、あるいは特定の
研究室などから優秀な人材が輩出されるのだと思う。
問題は、ピカピカ光る背中を持つ人間に、運がよくな
いとめぐり合えないことである。
組織内の人間同士の関係性がよくなると、その場に
いても自分を否定される恐れがなくなる。その場が安全
になるので、様々な異なる意見が提示され、お互いの
経験や価値観が共有される。
ただ、それだけでは仲良しクラブで終わりがちだが、
そこにミッション(使命)や課題が加わると、より幅広く
深い探求が行われるように動きが変わってくる。関係
性のよい組織に種が植えられると、一気に課題探究性
が高まるのだ。
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そうそう、組織論でいえば、
元西武ライオンズ監督の森祇晶さんの
著書からは、学ぶところが多かった。
この人はたくさん本を書いていて、
私も10冊近く読んだと思う(いずれも10年以上前に)。
9年間の監督時代にリーグ優勝8回、日本一6回というまさに名将。
勝ち続けるための組織をいかにつくるか、
人がみずから動く組織をどうつくるか、若手の教育方法など、
豊かな実践に裏うちされた組織論・教育論は、大きな影響を受けた。
「壁は迂回するためではなく、乗り越えるためにある」
「勝つことが問題ではない、勝ち続けることが問題なのだ」
など、
森さんの言葉は、いまでも自分のなかに強く根をはっている。
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