(尾崎曜子/作・絵)
ほとんど、「いそいで いそいで」という言葉だけの絵本。
でも、すごく共感したなあ。 いいなあ、これ。
この前読んだ、椎名誠さんの『絵本たんけん隊』の
なかに、以下のような紹介があって、
ぜったい読みたいと思って、ネットで探して、ありました。
(アマゾンにはなかったので若干あせったけど)
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あるとき巨大な積乱雲が出ているのを、通っていた
日活の撮影所を出たところで見つけて、うわーっと思い
ました。バス停のところに立っていたのですが、すぐ
目の前に一生に一度見ることがあるかないかのでっか
くてうるうる動いている入道雲があったんです。もの
すごい一生もんの入道雲です。まわりにはけっこうひと
がいて、自分たちの話に夢中になっていました。ぼくは
本当に息をのんで見ていたのだけれど、ひとりで見て
いるのがもったいなくて、まわりのひとにもなんとか
空を見せたいんだけど、みんな空なんか見ないんです
よ、もう、ぜんぜん。なんというもったいないことと、ひと
りであせっていました。数人のオバサンたちは誰かの
悪口を言っていましたね。そのまわりに子どもたちが
数人いたんですがなにかのゲームに夢中になっていて
やっぱり気がつかない。せめてその子どもらに見せた
かった。もうちょっとで言いそうになってしまいました。
「みなさん、空を見ましょう!」なんてね(笑)。
そんなことを言うとすぐに単なるアブナイおじさんに
思われてしまうから、仕方なく抑えたんですが、すごく
悔しかったです。都会人は・・・・・・いや、へたをすると
日本人のほとんどが、いまほとんど空を見上げなくなっ
てしまっているんじゃないかと思う。これはもしかすると
子どもたちに伝播、影響しているかもしれないね。大人
が見なければ子どもも見ませんからね。ファミコンやな
んかをピコピコやっていたほうがおもしれぇや、なんて
ふうになっているかもしれない。そんな悲しさを感じて
ある新聞にその話を書いたんです。
それから数日して絵本が送られてきました。手紙が
入っていて、このあいだの椎名さんのエッセイを見て
すごくうれしかった、と書いてあるんです。その絵本が
この『いそいで いそいで』なんです。おぎようこさんと
いうひとが作、絵です。どんな絵本かと言うと、おとう
さんが家に帰ってきて、「みんな、いそいで、いそいで」
と言って急がせて、みんなで「なんだろう、なんだろう」
と思って、ともかく外へ出ていくわけです。どんどん、
どんどん。で、どんどん、どんどんいくと、やがてむこう
にすごい夕焼けがあった。まあ、それだけの話ですが、
まさしくそうなんですよ。そういう感性をもったおとうさん
は、いいね。いま都会のおとうさんは疲れているから。
会社から家に帰るときは下向いて帰ってくるでしょうか
ら、ほとんど夕焼けがあっても気がつかないだろうな。
よしんば夕焼けがあったとしても、もう家に帰るとへと
へとで、すぐ「ビール、風呂」って言ってしまうような状
況でしょうから。ある種の望みを託して、こういう絵本を
おざきさんが描いたのかもしれない。手紙はこのおざき
さん自身からきました。おざきさんも、「わたしもかねが
ね今年の空はいいと思っていたのだけど、みんな気が
つかないでいるんで悔しい思いをしたけど、椎名さんが
気がついてくれたからうれしかった」という、そういう
友情の手紙だったんです。
空というのは、やっぱりひとのこころを動かす、気分を
変える力があるので、いい空はやっぱり見たほうがいい
と思うんです。「きょうはいい空だな」とか、「きょうはよく
ない空だから、1日沈んだ気持ちでいよう」とか、いろい
ろな気持ちのもち方があるんじゃないでしょうか。
(112~115P)
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これは、先週木曜日の、17時半ころ。
労働学校入学式の日で、勤労者福祉センター4階からみて、
「うわー!」となりました。
この日はずっと曇っていたけど、急に西の空が晴れて。
雲がみるみるうちに紅く染まって。
でも入学式の準備があったから、ゆっくり見れませんでした。
数分後に見にいったら、すっかり色が変わっていました。
夕焼けって、ほんとうに、タイミングなんですよね。
「いそいで いそいで」の気持ち、すごくよくわかります。
絵本の作者の尾崎曜子さんは、
絵本のさいごにこんなメッセージを書かれていました。
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帰りの電車の中から、夕やけのはじまりを見つけま
した。駅におりると、もうまっ赤。思わず立ち止まって、
うっとりと空を見上げます。でもそんなことをしているの
は、わたしだけ。夕やけなど、気にも留めずに、もくもく
と、家路をいそぐおとなたち。こんなすてきなショーを、
ゆっくりながめないなんて、ああ、もったいない!
ある日の夕がた、とつぜんやってきて、刻々と変わり
ながら、奏でられる空のオーケストラ。それはいつでも
おかあさんのいちばん忙しい時間。でもでも、キャベツ
がきざみかけでも、テレビのまんがの途中でも、みんな
みんなほっぽいて、いそいで、いそいで。近くのいちばん
空が大きく見えるとこはどこ? マンションの屋上かな、
駅のそばの公園かしら?
さあ、おとうさんもおかあさんもいっしょに、こどものころ
のあの日みたいな、夕やけに、すっぽりそまりに、いそ
いで、いそいで。
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