最近読み終えた本。
といっても、うーん、最近ぜんぜん読めてないっ。
生活の全般的見直し、ぐうたら生活の鍛えなおしが必要です。
『ニュー・アトランティス』(ベーコン著、川西進訳、岩波文庫、2003年)
エンゲルスは、『空想から科学へ』の
英語版への特別の序文で、
「イギリスの唯物論の真の祖先は
ベーコンである」と指摘している。
(最近、この序文のおもしろさを
はじめて実感している次第です…)
そのベーコンが、描いたユートピア物語、
ニュー・アトランティス。
「サロモンの家」でのさまざまな
実験的・経験にもとづく科学の営みは、
400年前とは思えない、豊かな発想力。
こんにちでは、
ベーコンが夢見た科学技術の多くが実現している。
そして何より、ベーコンは、
自然に働きかけることによって人類が獲得した技術を、
人びとの幸福のために使おうとしていた。
そのことを、はっきり読みとることができる。
また、ベーコンは科学者集団の役割についても、
かなり現代に通じる考えを述べていることがわかる。
福島原発事故の悲劇を、ベーコンはなんと言うだろうか。
『コペルニクスと現代』(湯川秀樹ほか、時事通信社、1973年)
コペルニクス生誕500年を記念しての
シンポジウムをまとめたもの。
これは、かなり面白かった
湯川秀樹さんの「彼は疑った」
「少数派であることの意味」は
かなりヒットでした、私の中で。
コペルニクスは1473年~1543年に生きた人。
主著が、『天体の回転について』(1543年出版)。
エンゲルスは、「偉大な著作」と評価している。
「自然科学も、当時、自分の独立宣言を行なった。
もちろんこれは、ルターが最初のプロテスタントで
なかったのと同様に、いきなりはじめから独立宣
言として出されたわけではなかった。宗教の領域
でのルターによる破門状の焼却に相当するものは、
自然科学の領域ではコペルニクスのあの偉大な
著作〔の出版〕であった。このなかでかれは、なる
ほどおずおずと、36年間のためらいののちに、言っ
てみれば死の床で、ではあったにせよ、教会の迷
信にあえて挑戦したのである。この時から、自然
研究は、宗教から実質的に解放された。(略)この
時から、科学の発展も巨人の歩みをもって進行し
た」 (エンゲルス、覚え書き「歴史的事項」)
コペルニクスも、ルネサンスの人。
ルネサンス満開期に入ろうとしていたポーランドで
裕福な商家の息子として誕生する。
天文学を豊かに学べる教育環境で育つ。
18歳で、イタリアのクラコフ大学へ。
当時、世界最高の天文学を学べる大学、
ギリシャの古典研究もさかんだった。
この大学を卒業するときには、すでに天文学の
改革の必要性を感じていたという。すごいね。
じつは、地動説をとなえたのは、コペルニクスが
最初ではなく、紀元前3世紀のギリシャ人、
アリスタルコス、と言われている。
そのアリスタルコスの説にコペルニクスは
たいへん興味をしめし、自分の着想の元にしたと言われる。
ここが大事な点だが、彼は古代ギリシャ語にも精通し、
ギリシャの哲学書や数学書、古典文学も読んでいた。
やはり独創的な仕事をする人は、貪欲にそれまでの
先人の築いたものを学んでいるもの。
『天体の回転について』の草稿は1530年頃には
できあがっていた、と言われているが、
彼はそれを公表するつもりはなかった。
しかし弟子のレティクスから熱心に出版をすすめられ、
「ためらいののちに」出版を決意する。
「これは仮説にすぎない」という序文をわざわざ
つけたりもした。
刷り上った本を手にしたのは、彼の臨終の日だった
と言われている(死後半年たっているとした本もあった)。
『天体の回転について』の内容ポイントは、
*地球は動いている
*火星とか木星とか土星と同じような、太陽の周りをまわって
いる惑星にすぎない。
*宇宙の中心は地球ではなく、光り輝く太陽こそ宇宙の中心だ
↑これは当時の認識の限界
これは当時としてはまさに革命的な思想の転換だった。
彼は著書でたんたんとそのことを書いているが、
この主張をきちんと根拠づけるために、天文学理論・
数学的・物理学的証明を、かなりの分量で書き綴っている。
「こういうような考え方は、教会で昔から認められてきてお
りました宇宙観、つまり宇宙の中心は神によって特別につ
くられた地球であるという考え方と相容れないものです。し
たがってこれをうかつに表沙汰にするということになります
と、おおいに物議をかもすおそれもあり、また思想的な混
乱を起こすこともあるわけで、コペルニクスはそういうことを
非常に心配したようであります」
(廣瀬秀雄「コペルニクスとその後の宇宙観」、
『コペルニクスと現代』所収)
地動説は、コペルニクスが心配した通りに、
キリスト教勢力から攻撃を加えられる(のにちは禁書に)。
ルター(1483~1546)は、カトリック教会以上に、
このコペルニクスの説を非難したと言われている。
相対化することの意義。地球や人類が相対化された。
また、学問のあり方にも、大きな影響をあたえた。
「コペルニクスの体系は、地球というものを惑星に転落さ
せますが、それは同時に地球という惑星の発見であり、
太陽系の真の姿の発見であるということができます。
これが天文学の地動説による革新でございます」
(廣瀬秀雄、同前)
「それからもう1つ、宇宙という問題につきまして、それ
までの天動説は、聖書に記されているところと一致し
ますので正しいとされてきたわけでありますが、このこ
とは、それまでの世界では真理というものは聖書の中
に書いてあるということでございました。しかし、このコ
ペルニクスの地動説が正しいとなると、必ずしもそうで
ないことになります。真理というものは見かけのまま、
つまり天動説というのは見かけのままでありますが、
その見かけのままが必ずしも真の姿ではない。われわ
れは、やはりわれわれの目を働かせ、そして真の姿を
つかまなくてはならない。地動説はそういうことを教え
たものであるという具合に考えることもできるかと思い
ます。
そしていままでのように真理は聖書の中にあるという
考え方が、そうでなくなったのですから、社会全体のい
ろいろな問題につきましての価値観というものについて
人びとに一考を促したわけでありますし、またそういう
権威というものに盲従するということが、いかなる結果
を引き起こすかというようなことも、コペルニクスは人び
とに示したという具合に言うことができようかと思います。
ですから地動説は単に天文学上の改革にとどまらず、
ここに社会的、また思想的な大変革を生じたというよう
なことを、後世の人びとが申しまして、『コペルニクス的
転回』というような言葉が使われるようになったのでご
ざいます」 (廣瀬秀雄、同前)
「今日われわれはそうだと教えられているから、そう思う
のであって、何も知らなければ、そういう恒星系全体が
動いている、太陽も動いており、ほかの星も全部動いて
いると思うほうが、直接の経験に忠実であるという意味
であたりまえです。逆の考えをするということは、後にな
れば簡単なようでありますが、しかし、最初はなかなか
受け入れられなかった。
(略)
彼の時代はルネサンスの時代です。ルネサンスは多
くの天才を生んでいるけれども、ほかの天才とは非常に
違う、孤立的な思想家であった。また天文学者の間でも、
非常に孤立的な立場にあった。少数意見であった。そし
てまたもちろんそれは聖書というそれまでの絶対権威と
抵触する考え方であった。そういういろんな理由から、
彼の説がそのときに多数の人によって認められたもの
ではなかったということは、きわめて重要であります」
(湯川秀樹「コペルニクスと現代」、『コペルニクスと現代』所収)
「何かを自分でつくった人は、自分で疑っているんです。
できたものを信奉する人は、つくった人と同じような疑い
を持っておらない。いつの時代でもそうですが、それは
きわめて重要な違いです。
コペルニクスの場合はどうだったか、私はよく知りませ
んけど、(略)後世に対してさまざまな問題を提起してい
る人です。ということは、コペルニクスもまた、ある1つの
ことを考えて、それをただ非常に単純に信じきっていたと
いうような人ではなかったのだろうと思います」
(湯川秀樹、同前)
「哲学ものがたり教室」の講師をしてみて、
何回も強調し、また私なりに深く再認識したのが、
この「疑う」という学問的姿勢です。
つまりそれは、徹底的に学んで、
さらに、それを自分の頭で考える、ということ。
たいへんだけど、
これをやっていかないと、ね。
そうそう、本書の中にあった
コペルニクスの伝記も、すごく面白かった。
やっぱり、偉大な仕事をした人の人生を知るって、大事だな。
コペルニクスに続いた、
ブルーノと、ガリレイの伝記も、また読みたいです。
Hatsukaさん、コメントありがとうございます!
『宇宙創世』、おもしろそうですね。この手の本大好きなんです。
ご紹介ありがとうございます☆
投稿情報: 長久 | 2011年6 月16日 (木) 07:23
初めまして! 時々このブログ見に来ています。
宇宙の発見ということでは、サイモン・シンの「宇宙創成」(新潮文庫)も激しく面白いです。まだ未読でしたら、時間があるときにでも是非!
投稿情報: Hatsuka | 2011年6 月16日 (木) 00:52
たしかに、
この本がこんな安値で!?というの、ありますよね。
アマゾン、古本のネット販売。
ほんとうに便利になりました。
かなり助かってます。
コペルニクス、ガリレイ、
ベーコン、デカルト、ロック、
ヴォルテール、ディドロなどなど、
ほんとうにこの時代の思想家・哲学者から
学ぶことは多く、めちゃくちゃ面白いです。
いまの日本社会をつねに頭に入れながら学んでます。
投稿情報: 長久 | 2011年6 月15日 (水) 21:18
『コペルニクスと現代』、面白そうですね。さっそくアマゾンで注文しました。
もちろん古本。
価格146円+送料250円なり。
使用価値と価値の落差(笑)
でも、ありがたい。
紹介ありがと。
投稿情報: ふとめしんど | 2011年6 月15日 (水) 20:00